ID: 61198019
ハーメルについて
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タイプ: 収集
カテゴリー: キャスラータウン周辺

ハーメルについて 1

1199年。

アイナール様のしもべである修道士イグティヌスがキャスラー修道院にて、この記録を残す。あの方の御前、真実のみを告げる。
時は1187年、戦火を逃れ、親愛なる仲間イベディトと共に南へ下った私イグティヌスは、このキャスラー修道院を避難先とした。ラスランの領主様は、私たちのような境遇の修道士を好意的に迎え入れ、絶望することなく村に適応できるように助けてくださった。
その頃、領主様の幼いご子息ヘンリー様に、自然哲学を指導してほしいと頼まれた私は、恐縮ながらしばしの間、あの方と共にキメノスの「自然の原理入門」に読み入った。ヘンリー様は幼くして聡明で好奇心にあふれる方だった。あの方の鋭い質問には何度も冷や汗をかかされた。
今から書き記すことは、私がキャスラー修道院に腰を落ち着けてからしばらくして起きた出来事だ。その日もヘンリー様は授業のために修道院にいらしていたのだが、午後の授業の休憩時間中、しばらく目を離した隙に行方がわからなくなってしまったのだ。

ヘンリー様と共に訪れた護衛兵はマシューという若い青年だったが、彼は木陰で呑気に眠っていた。私とイベディトは慌てて彼を起こし、一緒に修道院周辺を捜索したが、日が暮れるまで何の手がかりも得られなかった。私たちはこの不始末について領主様にどう報告すべきかわからず、目の前が真っ暗になった。特にマシューの顔色は真っ青を通り越して唇まで真っ白だった。修道院を囲む平原に害獣はおらず、シカの縄張りとなっていたが、ヘンリー様は幼い少年だ。いつどのような事故に巻き込まれるか、わかったものではない!
その時、イベディトが大声を上げた。私たちは彼に手招きされるままにハーメルの平原を見渡せる丘に駆けつけ、そこで驚くべき光景を目にした。闇の中から青く光るシカの行列が迫ってきていた。

ハーメルについて 2

私たち三人は言葉を失い、光るシカの行列を見下ろした。それは間違いなく神聖な体験だった。
シカたちが近づいてきたとき、私は気づいた。群れの先頭に立つ白い角の巨大なシカが青く光り、その光が残りのシカも青く染め上げていたのだ。

「ヘンリー様!」

マシューが低い声で叫んだ。私は仰天した。よく見ると巨大な青いシカの背中には、少年がうつぶせになって眠っていたのだ!
シカはヘンリー様の服の裾を口でくわえ、ゆっくりと地面に下ろした。ヘンリー様が目を覚ます気配はなかった。その時、シカは私たちの方を見上げた。丘の上の三人の人間が見えているかのように、威風堂々と頭を振ってみせるのだった。私は「子どもの面倒をちゃんと見ろ」と叱るような声を聞いた気がした。
シカたちは闇の中へ消えていき、私たちはハッとなって丘を駆け下りた。私は驚きに震えながら目を見開いた。ハーメルの伝説は本当だったのか!

狼の王と呼ばれたイスケールを追い払い、夢と現実を行き来し、時間すらも巻き戻す力を持つとされる神秘のシカは実在したのだ!
ヘンリー様は野原の上に横たわっていた。一番先に着いた私は、無礼を承知でヘンリー様の肩を揺すった。眠りから目覚めた少年は目をこすりながら尋ねた。

「うーん…授業の時間ですか?」

私とイベディト、護衛兵のマシューは、その日のことを誰にも言わなかった。ヘンリー様を行方不明にさせてしまったことへの叱責が恐ろしかったこともあるが、神聖な体験について口外することがはばかられたからである。今さらの告白となってしまったが、私はこのことについて一生話すつもりはなかった。時が経って、ハーメルの存在が幻ではないという確信が持てなかったからだ。
しかしあの後起きたすべてのことによって、私はあの日の出来事が、疑いようもない現実であることを知り、今さらではあるが文章で残すことにした。

ハーメルについて 3

神獣ハーメルはヒューマンの過去と未来を見通し、英雄の器を備えた者の前にのみ姿を現すという。幼い頃にハーメルを目にしたヘンリー様は、とうの昔に運命の道を歩み始めていたのだろうか?
その答えはわからないが、私はあの方の墓碑を見るたびにあの日の出来事を思い出し、驚きと悲しみを禁じ得ない。

-1199年、キャスラー修道院にて。

exitlag


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追加者 Kiriak (7-10-2024)
追加者 Kiriak (7-10-2024)
追加者 Kiriak (7-10-2024)